「だいたい分かるよ」
朱墨ちゃんがひきついだ。
「昨日から徹夜で作業してたでしょ。
パーフェクト朱墨を私向きにするために。
その力を示すために、出撃したんだ。
まあ、貴族は自分で考えるのがお仕事だから、君たちの世界では真っ当だと思うけど」
分かってたんだ。
おだやかなその表情からは、ムダに攻めようという気はないみたい。
「違うんです」
え?
「結局あの船、ファイドリティ・ペネトレーターと言いましたね。
あれは海を航行するだけで帰ってきましたが、僕は大陸へ行くものと思っていました。
僕は、大陸が見てみたかったのです」
頭が働ない。
恐怖という詰め物で、脳細胞が動かなくなったみたい。
体も動かない。
一瞬で店の空気が冷えて、凍り付いたみたいに。
「あんた正気!?」
ガタッ! とイスが弾き飛ばされた。
朱墨ちゃん?
同時に、コブシが頭上に高く上がる。
アーリンくんに振り落す気だ!
でもコブシは、別の手で止められた。
バシッ! と、肉を打つ音とともに。
「痛っッ」
「ああ、ごめんなさい。
でも、ゲンコツは質問に入らないよ」
朱墨ちゃんのコブシは、達美さんに腕をにぎられて止められた。
「ここは彼から話を聞く場だよ。
正義を決める場じゃない」
達美さん、すごいや。
いつもは騒がしいのに、この場では近づくそぶりさえ見せなかったのか。
そんな感想がどうでもいいことだと気づくのに数秒かかった。
恐怖でよどんだ脳細胞が、徐々に動きだすのに、それだけかかった。
「私たちの最新情報を渡せばいいのか、お仕置きをすればいいかは、これから決めることだよ」
達美さんの説得は、届いた。
「……ごめんなさい」
朱墨ちゃんはコブシを下ろし、私を含めてみんなに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。席に戻ってください」
アーリンくんもあやまった。
「あなたたちが、大陸をそこまで危険視していることは、存じております」
共感している。それは確かみたい。
だったら、聞いてみたいことができた。
「あの、アーリンくん。
まず、あなたが考える大陸のことを、聴かせてもらえませんか?」
早口にならないよう、落ち着いて、抑えて話す。
「第二次朝鮮戦争がどうして起こったか。とか、それまでどんな国があったか。とか。
そうだ、バーストの後から、どうしてあのあたりの怪獣が暴れやすくなってるかも聴きたい。
あなたが重要と考えることを、なるべく時間でならべて、話してもらえませんか?」
アーリンくんが、おずおずとうなづいた。
|
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
朱墨ちゃんとアーリンくんの未来にご期待ください