~エレボニア帝国 クロスベル州上空~
エレボニア帝国の戦艦による魔導障壁の解除と二回目の<相克>。結果として<ゼクトール>を吸収する形となったが、その代わりにルトガー・クラウゼルの魂は新たな騎神<ハウゼンリッター>として成った。
フィーを含めた『西風の旅団』メンバーは驚いたものの、いずれ来るであろう別れの時期がもう少し伸びたという認識であり、特段悲しむ素振りは見せなかった。
そのままクロスベル方面へ飛ぶこととなったリィンたちだが、魔導障壁の展開は見られていない。近づいたところで発動するのかと推察していたところに通信が入る。相手はクロスベル方面にいるルドガーたちからであった。
「―――ルーファス・アルバレア総督の消息がつかめない?」
『ああ。あれだけ目立つ人間の情報がだぜ? 最前線になるであろうクロスベル方面にいないというのがおかしいと思うんだが』
ルーファスの消息が掴めないという事実に不満を漏らしたのはヨナ・セイクリッド。戦争という一大事を鑑みれば、士気を上げるという意味で彼が姿を見せてもおかしくはない。その彼がクロスベル方面にいないというのも本来ならばおかしな話だろう。
『アスベル、どう見る?』
「一抹の不安は拭えないが、魔導障壁を解除したのならば霊場に入り込むことはできるだろう。ルドガー、霊場突入前に一度打ち合わせたい」
『……ああ、俺もその意見に同意だ』
今日は<ゼクトール>の件で丸一日潰れてしまったため、リィンたちが霊場に突入するのは早くても明日。今日は準備のために英気を養う方向で同意した。すると、ここで手を挙げたのはマリクだった。
「それなら、ユミルに行くのはどうだ? 確かラグナたちが温泉に行きたいと言い出して、あそこの衛士隊の連中を全員追い払ったらしい」
「……リィン、連絡を取ってみてくれるか? 裏技を使って暗号通信なら問題はないと思うし」
「あ、うん。そうしてみるよ」
衛士隊の安否が気になるところではあるが、変に心配するほうが疲れると判断してリィンに通信を試みるよう言い含め、シュバルツァー家に連絡を入れてみた。
ユミルはリィンのこともあって衛士隊がいたのだが、ラグナたちが暴れて全員病院送りになったらしく、加えてリノア・リーヴェルトが導力ネットでエレボニア帝国の悪評を周辺国家にばらまきまくったそうで、結果として『千の陽炎』作戦の援護射撃になっていた。
シュバルツァー夫妻はリィンの姿を見て驚いたが、温かく迎え入れてくれた。『カレイジャスⅡ』と『アルセイユ』はユミルの山中に隠す形で停泊することとなった。各々一息ついたところで、ユミルの人里外れたところにアスベルとルドガーが二人で話し合っていた。
「お疲れ、ルドガー。オルキスタワーでは暴れたらしいな?」
「<劫炎>マクバーンの奴がいたからな。連中の機械も対呪装甲を積んでいたが、それは何とかなった。ついでに障壁発生器を破壊してマリアベルも殺した」
「……ストレスが溜まってたか?」
「それは否定できん」
マクバーンは『興が冷めた』と言って撤退したとのことで、ルドガー自身も別世界とはいえ同僚を斬る事態は避けられた格好だ。その一方、何故かいたマリアベルすらも容赦なく殺したということは、ルドガーにも思うところはあったのだろう。
強いて言うならレンの件―――『D∴G教団』絡みだと思われる。魔導障壁発生器を再度持ち出されて鼬ごっこになる可能性はあっただけに、ルドガーの対応は至極真っ当なものだ。
「お前はお前で大変だっただろう? 新たな騎神まで生み出して、<相克>に付き合ったわけだし……で、どうだった?」
「<相克>はいわば『共鳴作用』―――<鋼>の融合のための儀式。そして、今回マリクの<ハウゼンリッター>を生み出せたことから察するに、力の介入はできるという結論に至った」
本来、<ヴァリマール>と<オルディーネ>の結果自体がイレギュラーということを考えれば、<ゼクトール>の吸収によって<鋼>の束縛を解かれるルトガー・クラウゼルを<ハウゼンリッター>の核にするという事象も成立できると踏んだ。
そして、アリアンロードの<アルグレオン>が陣を敷いた星の霊場がある場所も一つの懸念を抱えている。その場所は以前ルーファス・アルバレアが<エル=プラドー>に搭乗・出現した場所ということだからだ。
「力を抑えることができるのなら、力を奪うこともできるはずだ。そして、黄金―――空間を跳躍できる騎神なら、もともといた場所の霊場に飛ぶことも不可能ではない。リィン達には悪いが、<エル=プラドー>があの場に姿を見せるようなことがあれば、破壊して<ヴァリマール>の贄になってもらおうと思ってる。最悪はルーファス・アルバレアも殺す」
「アスベル……」
「最悪の場合はな。ユーシスに押し付けて裁かせるのもありだけど、彼の立場は厄介すぎる。どうせカンパネルラの奴が姿を見せる可能性もあるから、奴に押し付ける案もある」
ルーファス・アルバレアが単なる貴族ならば、それこそ不慮の事故にしてしまえばいい。だが、政府の中枢に近しい立場の彼を下手に殺すことでほかの『
この辺はこの世界の人間たちに決めてもらう―――それだけは確定している。
「これから始まるであろう大戦に、俺たちは恐らく関与できない。気になる数字のリミットが9月1日の0時だということは確かだが、その条件を整える方法がさっぱり過ぎる。ただ、これがもし<相克>に則った方法だとしたら、どうにかして場を構築する必要があるわけだが……その場をどこにすべきかということも分からん」
今の状況に則るやり方だとすれば、問題はその場を構築する方法や手段が正解だという保証もない。リミットから逆算するとしても、恐らくクロスベルのどこかで実行する必要が出てくるのは避けられないとしても。
「うまいこと超常的な力を集約する方法か……ま、もしその時に戻れなかったら、大戦で暴れ散らかしていこうぜ」
「そうだな。その時はエレボニア帝国を滅ぼすか。ついでにカルバード共和国にも痛い目を見てもらうのは確定だが」
「お前が言うと冗談に聞こえなくなるんだよなあ……」
仮にアスベルらが連合軍側で動けば、政府中枢を破壊するぐらいは簡単にやってのけるだけの戦力を有する。これでも過去に『神』レベルの連中を相手にしてきたので、それに類するであろう<イシュメルガ>を完全に消滅させることも不可能ではない。
「ともかく、今やるべきことは<相克>を進めて星の霊場を開放すること。その場にルーファス・アルバレアが姿を見せる可能性は十中八九だろうから、その場で<エル=プラドー>を破壊する。戦力面でいけば結社でも最強格のアリアンロードを喪う方が痛いからな」
「……ま、同感だな。上手くいけば鉄機隊諸共引き抜ける訳だし、損はねえか」
翌日、ユミルを飛び立った一行は星の霊場に到着する。特に大きな妨害はなかったため、霊場の入り口である湿地帯の奥地へと足を踏み入れた。霊場に入ったリィン達だが、ここでアスベルとルドガーの二人は何故か霊場の最奥部へ飛ばされる格好となり、そこにはアリアンロードと彼女の騎神である<アルグレオン>が佇んでいた。
「これは……成程、貴方方が主の述べていた“転移者”ですね?」
「ええ。まあ、別に性急なことはしないつもりですが……いかがします? 場を温めるぐらいのことはしますが」
「そうですね。では、そちらの方に一騎打ちを所望いたします」
リィン達がこの場へ到達するには時間がかかるため、性急なことは出来ない。アスベルの問いかけに対してアリアンロードが一騎打ちを指名したのは―――ルドガーであった。これにはルドガーも頭を抱えたくなるようなそぶりを見せていた。
「向こうでもこっちでも変わらずか……まあ、俺でいいなら相手になる。尤も、俺はアンタらの知る[|漆黒の牙《ヨシュア》]のような戦い方をする形になるわけだが、異存はねえか?」
「構いません。そもそもこちらから提案した以上、どんな戦い方でも厭うつもりはありませんので」
「なるほど、実にアンタらしい……並行世界における俺の肩書は『身喰らう蛇』使徒第一柱<神羅>。いざ尋常に勝負させてもらう!」
「使徒第七柱、<鋼>のアリアンロード。その名が偽りでないことを証明して見せなさい!」
そうして始まるルドガーとアリアンロードの一騎打ち。アスベルは邪魔にならないようフィールドの外側で様子を見守る。警戒するのは二人の攻撃の余波に対してもあるが、それ以上にこの場へ侵入してこないとも限らない存在の察知もあった。
二人の戦いは熾烈を極めており、完全に一進一退の状況を見せている。だが、それでも徐々にルドガーが勝負の主導権を握りつつあった。
「いざ、受けよ! 神技、グランドクロス!!」
「―――俺は、アンタを超える! 絶技、
互いの持てる最大の奥義がフィールド中央で炸裂し、互いに背を向ける両者。だが次の瞬間、アリアンロードの身に着けていた兜が砕け散り、彼女は素顔を晒す形となった。ゆっくりと立ち上がるルドガーだが、彼女に対して歩み寄ることはなかった。
その理由は入口のほうで戦いを見守っているリィンらの姿に気付いていたからだ。
「さあ、リィン。場は温めておいた! お前にしかできない戦いで<相克>を乗り越えて見せろよ! 出来るだろ、お前なら?」
「ルドガー……ああ、勿論だ! クロウ!」
「おうよ! 聖女さん、付き合ってもらうぜ!」
「ふふっ……いいでしょう。ならば、始めると致しましょうか。<アルグレオン>!」
<ヴァリマール>と<オルディーネ>、対するは<アルグレオン>。前回とは異なり、互いに<鋼>を有する者同士が競う儀式。この先にどんな結果が来ようとも、リィンなら『そうする』であろう結果を見守る。
騎神の中では上位クラスに入る<アルグレオン>だが、<ヴァリマール>と<オルディーネ>の連携に押され、最大火力の技すらも凌ぎ切られた。そうして<アルグレオン>が膝をつき、<相克>の儀式が本格化したタイミングで、アスベルとルドガーが突然走り出した。
「アスベル!?」
「ルドガーも!? いったい何を!?」
突然走り出す二人に動揺するリィン達。主に対してのものかとデュバリィら鉄機隊も駆けつけようとした。だが、それに対して声を上げたのは―――消えかかっている状態のアリアンロードであった。
「心配なさらず。彼らは私を『見ておりません』」
「えっ!?」
「それは一体……」
彼女の消滅を防ごうとしているエマや、アリアンロードのことを知って駆け付けたローゼリアの疑問に答えるかの如く、アスベルとルドガーの姿が忽然と消える。そして次の瞬間、彼らは<アルグレオン>の背後に姿を見せて、獲物を構える。
「簡単に力を手に入れようとする卑怯者は、地獄に堕ちろ」
「正々堂々と戦えない奴に力を扱う資格なんてない。消え失せろ」
―――八葉一刀流、極式。天神烈破。
―――絶技、マテリアル・クロスレイド
二人が放った斬撃の嵐。一見すると何もない空間へ放ったかのように見えた技の意味は、リィン達にも直ぐに理解できることとなった。まるで何もない空間から崩れ落ちるように落下するのは黄金の装甲を纏ったパーツ。そしてそれが何を意味するのか、真っ先に声を上げたのはリィンであった。
「あ、あれは!?」
『まさか<エル=プラドー>!? まさか、このタイミングを狙って力を吸収しようとしたんじゃ……』
『可能性は十分にありえるな。ったく、この可能性を読み切れてなかったのは馬鹿だったぜ』
「いや、クロウの責任じゃないと思う。それを言ったら、俺もその可能性を考えていなかったから、お互い様だよ」
<相克>の儀式における干渉―――これまで<オルディーネ>や<ゼクトール>で起こっていなかったことが三度目の今回で発生した。そういうことが発生していなかったから、今後も発生しないと高を括っていた部分があったのは確かで、リィンとセリーヌ、クロウは己の失態を恥じるように呟く。
四肢をバラバラにされた<エル=プラドー>が儀式の力場に吸い込まれ、リィンの<ヴァリマール>に吸収されていく。それと同時に<アルグレオン>から<ヴァリマール>に流れ込んでいた力にも変化が生じる。
そして、<エル=プラドー>の胴体部分から光の玉が発せられ、床に着くと意識を失ったルーファス・アルバレアの姿がそこにあった。それを見たアスベルとルドガーは、彼に対して興味が失せたかのように得物を収めてリィンらの下へ歩み寄る。
「アスベル、ルドガー」
「良かったの? あの人は……」
「あれで心が折れるようなら『鉄血』に従ってないだろう。彼の行く先を決めるのは俺らの仕事じゃないからな」
「同感だ」
今回の目的はアリアンロードと<アルグレオン>を戦力として確保するための生存。それに茶々を入れてくるであろう<エル=プラドー>の完全破壊。その結果としてリィンの<ヴァリマール>は更にパワーアップをしただけでなく、<アルグレオン>を眷属として従えることとなった。
<相克>の儀式が終わったところで、デュバリィはアスベルとルドガーに対して頭を下げた。
「その、マスターを救っていただいてありがとうございます!」
「<相克>がある以上、延命処置に過ぎないことは理解してくれ」
「……ええ、分かっております。それでもお礼を言わせてください」
「デュバリィが素直に感謝している、だと……」
「明日は槍でも降ってくるのかしら?」
「アイネス、エンネア!! 二人して何を言っているのですか!?」
そして、当のアリアンロードは「今回の一件で義理を果たした」と結社『身喰らう蛇』からの脱退を宣言。これについては既に盟主(グランドマスター)と既に話をつけており、特に問題はないとのことらしい。
更に、気絶したルーファス・アルバレアに関してだが、様子を見に来たカンパネルラが引き取る形で帰還していった。戦争を不利にさせる意味で抹殺することも考えられたが、変に殺して指名手配で動けなくなるリスクを鑑みた結果、大人しく返すことで決着させた。
<相克>が終わったところで湿地帯に出てきた一行は負の力の波動を感じる。そしてそれは、オスギリアス盆地に眠っていた太古の機動要塞が再起動したことを意味するのであった。
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