平賀才人は働いていた。
ここは王都トリステインの東地区である、平民が暮らす城下町の一つ。
王都トリステインは大まかに分けて五つに分かれている、お城に隣接する貴族達が暮らす貴族街。
平民達が暮らす、平民街が東西南北に分かれて四つある。
王都であり首都でもあるこの町は国号と同じくトリステインという名を頂いている。
ひょんなことから魔法が存在するこの世界へ迷い込んだ平賀才人。この世界の事情で一度は死にかけたが何とかは生き延びた。
初めは長い夢を見ているのだと思っていたのだが、元の世界とは違う異世界に転移したのを自覚したのはファンタジー溢れるこの街の存在が大きかった。
車が走行するのを前提とした舗装道路と違い、せまい道に敷き詰められた石畳は近代科学を一切感じさせない。まさに教科書の知識でしか知りえない時代物。
レンガ作りの家の周り……汚物がそこかしこに捨ててあるのも教科書通り。「夢なら覚めてくれ……」と愚痴るも残念な現実だった。
そして・・・才人の世界で中世レベルのこのトリステインで才人はどう生きてゆくのか?
「ううっ、に、日本に帰りたい……」
異世界転移もののお約束のセリフを吐いた所で事態は変わることも無く。今日の食い扶持を得る為に平賀才人は働いていた。
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「親方~こっちの仕上げ終わったんで確認お願いしま~す!!」
レンガを敷き詰めて一連の壁に仕上げて完成!初めて一人でやったにしては中々の出来栄えと自分で関心しつつ、上司に報連相。
セメントもどきの接着も均一にぬれて上々の出来であったのは嬉しかった。
働かざるもの食うべからず。朝から働きづめで太陽は頭の上からこんにちは。これはどこの世界でも同じである。
「ん~?う~ん……問題ねえな、良しサイトは飯に入れ」
王都トリステインに着いてから予想外に早く仕事が見つかった。「古今東西、力仕事は職に困らず」の格言宜しく平賀才人は大工仕事にありついていた。
「ウッス、才人飯行ってきま~す」
あの日、平賀才人が異世界に召喚されてから一月が過ぎようとしていた。
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お昼も終わってレンガを敷き詰めた壁を一心不乱に作る。そんなこんなで太陽も大分傾き、町に明かりが灯りだした。
「よ~し、野郎ども今日はお終いだ」
「っしゃー!!」
終業合図を待っていた野郎どもから歓声があがる。決められた労働時間が無い労働。上司の今日は上がりの一言で仕事が終わる。
才人も作業着のまま自分の道具の片付けをする。今日はひたすらレンガを組み立てていたせいかレンガ模様の幻覚が見える。
「サイト!今日の日当だ」
親方が片付けをしている才人に声をかけてきた。「古今東西、力仕事はあんしん日払い」の格言よろしく、お賃金はありがたく頂きます。
「親方、お疲れ様っす!」
大工を始めてから、周りの言葉が伝染したのか微妙に体育会系のしゃべりかたになった才人だった。っす!うっす!あざす!
「なあ?サイト、何度も聞くがおめぇ本当に大工をやるの初めてなのか!?」
「親方~、それこのあいだも言ったじゃないっすか」
親方がこの話をするのは初めてではない、先週も先々週も聞かれた事だ。
「俺は大工どころかちゃんと仕事するのもここが初めてっすよ、槌(ずち)もノコも握ったこと無かったっす」
「……とても素人とは思えねえよ。力仕事はまだまだ甘めぇが道具使う仕事はうちのじーさん以上の腕だぞ。今日の壁張りも……一人で十人分はやってるぞ」
「じゃあ、親方の教え方が良かったって事じゃないんすかね?」
「ふ~む、天才っていうのはいる所にはいるもんなんだな」
才人が大工になったのは王都トリステインに着いてからすぐだった、人が大量に辞めて猫の手も借りたいほどだったらしい。おかげで食うには困らなくなったのだから世の中うまく廻っているものである。
そして……人生初仕事の才人の道具さばきは完璧だった、彼の右手に握った槌がノコが誰よりも早く正確に仕事をこなす。
「まあいいや、それよりもサイト今日こそは飲みにいくぞ。じーさんもお前に会うのを楽しみにしてるからよ」
「あの~俺まだ十五歳なんで、お酒はほんと勘弁っす」
「なんでぇい!!仕事はいっちょ前に出来るのにそっちはまだダメなんか!こちとらハナたれ小僧のころから飲んでるのにな~」
「……ははは。その分明日の仕事で頑張るんで。お疲れ様でーす!」
片付けをそそくさとこなしてアルコールの気配からダッシュで逃げる。才人も異世界に来てまで法令順守を押し付けるほど野暮ではないし、体育会系の飲みニケーション重要さも理解できている。
が!才人はお酒が苦手であった。特有の浮遊感や二日酔い、吐き気を初日の歓迎会で味わった事がトラウマになっていた。
特に二日酔いのインパクトが凄く、次の日は半人前分ぐらいしか動けなかった記憶が蘇る。
今日も親方の誘いから逃げる事に成功し、適当な店で晩御飯にありつくいつものルーティーン(笑)の才人。
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ここは才人が住んでいる家、才人の世界で言うところのマンションに当たる規模の一室。
才人が王都トリステインに移ってきた時にルイズが借りてくれた部屋だ、こんな広い部屋じゃなくても大丈夫と言ったのだが...。
「狭い部屋じゃ飼い主として恥ずかしいでしょ!そう飼い主としてよ」
とのお言葉をいただき、どう考えても二世帯は住めそうな部屋で才人は現在一人で住んでいる。
正直に言うと非常に使いづらく掃除が大変である、大変ではあるのだがこの部屋で良かった事のほうが大きい・・・それは。
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「こんばんは」
「こんばんは」
比較的(才人調べ)治安が良いという所だろうか。二世帯は住めそうな部屋というか才人以外は大体が家族で住んでる世帯である。
同僚曰く一人用の部屋だと泥棒、スリ、酔っ払い、売春、etc……才人みたいな(日本育ちの)現代っ子にはハードすぎる住処だそうだと。
くらべてこっちはすれ違いに挨拶できる程度の治安は担保されている。
日本に帰る!それが才人の今の目標だが自分ではどうしようもない。まさに五里霧中。
ルイズや周りの大人たちが元の世界に帰れるように動いてくれているらしいがそれもどうなるやら。
どっちにしろ今できることは明日の仕事に備える事ぐらいか。
「さて、きょうはもう寝るかな」
部屋の隅にある藁……を通り過ぎてベッドで明日を待つ。明日も「平賀才人は働いていた」をする為に。
....第06話 城下町の使い魔
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ゼロの使い魔 二次創作