No.1186873

会話劇

AEさん

手術成功IFモノです。
その後のあの四人が、仲睦まじく暮らしていける世界線を見たかったので、書きました。
実際、歳食ってから見返すと、十五歳までに出会った人も立派な「幼馴染み」だと思います。

注意:

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2026-05-10 16:49:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:57   閲覧ユーザー数:57

「会話劇」

                by AE

           2026.05.10

 

ロスタイムがチャンスに変わる。

ディフェンスは硬いが、もうクセは把握したぞ、と渡選手は独り言を言う。

言っている間も視線は敵陣を睨み付けている。

 

そろそろだ。

 

こういう苦境の時に必ず聴こえてくる、あの演奏。

音楽には詳しくないが、親友が演奏家ということで、それなりに詳しくなってしまっている。

聴こえてくるあの音色はバイオリンのものに違いない。そしてその奏者はそれなりの技術を持っていることも理解していた。

ただし、その音色は彼にしか聴こえてこない。必ず応援に来る親友たちと相棒に尋ねても、幻聴か?とか、大丈夫?とか、病院行く?とか返って来るので、彼限定というのは正しいようだ。しかし彼にとってそれはどうでもよいことだった。

大切なのは、その音色が自分を奮い立たせ、勇気を湧き起こしてくれることなのだ。

 

同点まで足掻いた戦闘機動で既に自分も仲間もボロボロだ。優勝候補相手にここまでよくやった、等という実況が流されているのだろうが、ここで止まるつもりは渡選手には全く無かった。

まだやれる。足掻いてやる。

そう信じ続けることで、必ずあの演奏は聴こえてくるのだ。

全身の筋肉が、ホイッスルが鳴るのを待って緊張している。

 

来た。

 

今回の第一音はいつにも増して穏やかで……それゆえにそこから返される第二音の激しさが際立つ楽曲だった。

これって何という題名なんだろうか、等という疑問がよぎる間もなく、ホイッスルが鳴り響いた。

そして、渡選手の活きる意味が始まった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「よお」

 

「なによ」

 

「なに、ちょっと夜の散歩」

 

「公生なら今夜はご飯食べに行ってるわよ、かをちゃんの家」

 

「いや、公生んとこじゃなくてさ。おまえに慰めてもらおうと思って」

 

「はあ?」

 

「今夜は月が綺麗だし」

 

「息をするかのようにそういう台詞が出てくるのよね」

 

「座るか、公生ん家の庭で」

 

「いいんじゃない。留守を守ってた、とか言えば。実際、守ってるし」

 

「・・・昔は草原みたいに感じてたよなあ、ここの芝生」

 

「昔語りをしに来たんなら帰るけど」

 

「違う違う。慰めてもらいたいってのは本当だよ」

 

「公生に聞いてもらえばいいじゃない」

 

「いや、公生は知ってるし・・・っていうか無理だ」

 

「・・・かをちゃん関係か」

 

「うん。かをりちゃ・・・今日、宮園さんに振られた。正式に」

 

「・・・なんであたしに振ってくるのよ」

 

「何でだろうな。自分でもわからんのだが」

 

「あのさぁ」

 

「・・・怒ってる?]

 

「いつか刺されるとは思ってたけど、あたしが加害者になるとは思わなかったわよ」

 

「落ち着け椿、目がマジだ」

 

「女子に対する機微というか思いやりだけはマトモなヤツだと思ってたのに」

 

「椿には隠し事とか嘘はつきたくないんだよ。女子うんぬんよりも誠実で居たいんだ。おまえに対しては」

 

「・・・」

 

「・・・落ち着いた?」

 

「正直さ、自分でも、今の自分のどうしていいかわかんない状況が物凄くいやなの」

 

「・・・」

 

「かをちゃんのこと全部知ってから、かをちゃんのこともっと好きになったけど・・・たしかに嫉妬もあるんだろうな。

 でも、二人のこと応援したい気持ちもあるし、わけがわかんないんだよ」

 

「大切に想ってるんだな、公生のことも宮園さんのことも」

 

「話しなさいよ」

 

「え?」

 

「あんたの無様な姿、笑ってやるわ」

 

「そうこなくっちゃ」

 

「・・・意外とMよね、あんた」

 

「女王様気質がそばに居るとな。でも公生ほどじゃない」

 

「あれはMじゃなくて、鈍感であることを武器に、相手を完膚なきまでに叩きのめすSよ、自覚なしの」

 

「同感」

 

「つらいわ」

 

「始めていいか」

 

「どうぞ」

 

「今日が復学初日だったじゃないか、宮園さん」

 

「卒業まで昼帰りだってね。退院後は良好らしいけど、いろいろ検査があるんだって。ほとんど奇跡に近い回復だったから、とか」

 

「午前中の授業が終わって帰る途中だったのかな、購買に行く途中で呼び止められたんだ。大切な話があります、って」

 

「・・・かをちゃんの度胸、ホントあやかりたいわ」

 

「まあ、察してはいたんだけど。だから返事を考えながら着いていったんだ。一年間楽しい思い出をありがとう、とかさ」

 

「あんたのその潔さにもあやかりたいわね」

 

「で、校舎裏に着いて、宮園さんが振り向いた時には準備万端だった。公生のやつをよろしくお願いします、とかのオプション台詞も込みで」

 

「・・・」

 

「でも振り向いた宮園さんがボロボロ泣いててさ、慌てちゃって頭がフッ飛んで全部忘れてしまった」

 

「・・・」

 

「泣きながら、たどたどしい言葉で色々明かされたんだけど、正直、彼女が泣いてることの方が辛くて、全然頭に入ってこなかった」

 

「・・・」

 

「ああ、産まれて初めて、女の子からごめんなさいされてるんだなあ、って気付いた」

 

「・・・ざまあみろ」

 

「テンパってしまって、舌噛みながら楽しい一年でしたって頭を下げたらさ、宮園さん、もう全開で泣き出して。ぶるぶる震えてんだよ。ごめんなさいごめんなさいって繰り返して」

 

「また泣かしてる」

 

「なんか物凄く悪いことした気分になってさ。退院できたとはいえ、不安になって近付こうとしたら」

 

「そういうムーブはちゃんとするのね」

 

「樹の陰からこうせいがあらわれた」

 

「おお」

 

「心配で見に来たんだろうな、俺が目配せしたら俯いた宮園さんの肩を優しく押さえてさ。

 あ、こいつ俺を見て学習したな、いいぞもっとやれ、って思った」

 

「反面教師よね」

 

「少しして宮園さんが落ち着いてから、公生が俺を見て。それで言ったんだ。

 渡、僕を殴ってくれ、って」

 

「・・・」

 

「今までに見たことないような真剣な顔だったよ。あんな公生、初めて見た。本気なんだな、って実感した。こいつは自らの全てを投げ売ってでも、この子を守りたいんだ、って」

 

「・・・」

 

「でも俺、言ったんだ。俺じゃなくて、宮園さんに殴られろ。

 それでチャラにしようぜ、って」

 

「・・・」

 

「涙を袖で拭いてから宮園さんがキョトンとして俺を見て。それから公生を見上げて。それからもう一度俺を見た。

 だから、全力で行け、この鈍感男が全部悪いんだから、って言ってやったんだ」

 

「・・・」

 

「そしたらさ、やっぱり宮園さんも思うところがあったんだろうな。急にムッとした表情になって、片腕を思いっきり振りかぶって。

 これはまずいんじゃないか、って止めようとしたけど遅かった」

 

「・・・っ」

 

「公生の頬に紅葉が貼り付いていたよ。あれ、午後の授業どうしたんだろうなあ。誰が見ても痴話喧嘩だとわかるよ・・・って、どうした?」

 

「・・・ぷっ・・・くくく」

 

「やっと笑ったな、椿」

 

「くくっ・・・ふっふふ・・・わっはっははは」

 

「でも実話だよ、これ。作り話なんかじゃない」

 

「知ってるよ。・・・なんかすごく大きな絆創膏貼ってて、何聞いても答えてくれないんだもん・・・そうか、そういうことか・・・」

 

「過呼吸になってんぞ、笑いすぎ」

 

「・・・あー、なんかスッキリした」

 

「気が晴れたか」

 

「・・・そうか、あたし、あんたみたいに失恋したのか。十年以上かけた初恋を」

 

「今頃実感できたのか、でも俺もおまえのことは言えないな」

 

「あんたも今回が本気の初恋、だったんでしょ」

 

「・・・鈍感女(ボソッ)」

 

「なんか言った?」

 

「べつに」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「なんか言ってよ、星でも数えてんの?」

 

「いや、さ。宮園さんはこの一年でなんか一生分頑張ってたじゃないか」

 

「そうよね」

 

「人生なんて今後何十年もあるじゃん。十五歳までの年月なんて短いもんだ。

 だからさ、俺達が歳食ったらさ、今回のことは幼馴染みがもう一人増えたようなものなんじゃないか、って」

 

「・・・あんた、時々いいこと言うわね」

 

「そう思ったら、なんとなく嵌まったような気がするんだよ。不思議な言葉だよな、幼馴染みって」

 

「・・・そっか」

 

「そう思うだろ」

 

「あんた、慰めてくれてるのね」

 

「敢えて何も言わない」

 

「そういうとこがずるいのよ。女子の敵め」

 

「数十名以上の女の子から好評を得ております」

 

「倍以上の子から憎まれてるでしょうに」

 

「・・・ふぅ」

 

「なによ」

 

「で、ここからはオカルト話になるんだが・・・って、何だよ熱なんか無いよ」

 

「いやあんた、未だかつてそんな話題振ってきたこと無かったじゃない」

 

「俺は正常だ・・・自分でも信じられないんだが、帰ってきてからさ、ボロボロに泣いて部屋で布団被って眠っちまったらしいんだよ。

 で、ふと目が覚めたら側に宮園さんの生霊が立っていた」

 

「病院行く?救急なら・・・」

 

「いや、だからさ」

 

「妄想もそこまで来ると病気なんじゃない?」

 

「いや、妙にリアルだったんだ。宮園さんは頭を下げていたんだが、俺自身、宮園さんが悪いことしただなんて思ってないし。

 宮園さんが魅力的だったのは公生に恋してるから、なんてのは二人の演奏を聴いた時から知ってたよ。だから俺の妄想が産み出した、とかでは決してない」

 

「ふむ。心理学とかサッパリだわ」

 

「あと、顔を上げた宮園さんは眼鏡をかけてた。なんかこういうのもアリかな、って思った」

 

「あんたの新たなフェチの目覚めはいいから、先を進めて」

 

「で、彼女が言ったんだ。私のわがままに付き合ってもらって、申し訳ありませんでした、今宵はその謝罪に参りました、って」

 

「かをちゃんらしいな」

 

「どこからともなく取り出したバイオリンを構えて、謝罪の演奏が始まった」

 

「ますます、かをちゃんらしいな」

 

「物凄い技巧・・・っていうのかな、詳しくはないけど明らかに宮園さんの弾き方より凄かった。演奏に情念がこもっている、というか。でもさ・・・」

 

「?」

 

「その、音っていうのかな、とても綺麗で素人の俺でも凄いと思わせる程の迫力があったんだけど、深い謝罪の気持ちが込められているような気がして」

 

「ほう」

 

「初めて会った演奏会の時の、正直に言うけど、俺が一目惚れした凛々しい宮園さんじゃなかったんだ。

 だから俺、言ったんだ。やめてくれ、俺が好きになったのはそんなしおらしい君じゃない、って」

 

「・・・」

 

「そしたらさ、演奏が止まって。ボロボロ泣き出して、座り込んじゃって。こっちも驚いちゃってさ。背中を撫でてあげようと近付いたら」

 

「ちょっと、例え夢でもレッドカードが出るわよ」

 

「いや、誓って言うがそんな気持ちにはなれないようなギャン泣きだった。

 でも、近付く前に何処からかでっかい黒豹みたいなのが現れて、こっちを睨むんだ。あれには震え上がったよ」

 

「ちゃんとボディーガードが居るのね」

 

「しばらくして泣き止んだ宮園さんが平謝りに謝って、演奏中に止めるのは演奏家失格ですね、って。負けました、って」

 

「なんか本物っぽいな、それ」

 

「次にお会いする時には、次こそ私の全力をお聴かせします、って黒豹と共に消えていった」

 

「取り憑かれた?!」

 

「まあ、ウェルカムだけど。また来てねー、って手を振っておいた」

 

「友人が次々にかをちゃんに侵略されていく・・・」

 

「あ、なんか真剣に悩んでる」

 

「はあ・・・」

 

「大丈夫か?」

 

「あんただから正直に話すけど。

 持ってかれる感?ってのはあるのよ、正直ね。

 でも大好きな友達でしょ。これからも一緒に買い物行ったり、くだらない話をしたり、あ、公生の秘密を暴露してやったっていい。かをちゃんとは付き合っていきたいのよ。矛盾だらけの自分の心が恨めしい」

 

「なあ椿、辛いのを耐え続けることだけ頑張らなくてもいいんだぞ。逆境に居ることだけで既に偉いんだ」

 

「逆境、か・・・」

 

「生命の危機という逆境に立ち向かった宮園さんだけじゃない。そういう矛盾に立ち向かって、逃げずに悩み続ける椿を俺は否定しないよ、評価する。

 星は夜輝くんだよ」

 

「・・・あのさ、そういう台詞って、どういう風に考えてるの?」

 

「これは公生の悩みを聞いてる時に思い浮かんだ。

 大抵、公生に付き合ってる時に浮かぶんだよな、発作的に」

 

「不思議なやつ」

 

「あいつがな」

 

「公生に付き合ってると、いろんなものが見れるよね」

 

「たぶん、これからも、な」

 

「いいのかな、できるかな、これからもあの二人と仲良くしていけるのかな」

 

「おまえなら、いや、俺たちならできるだろう」

 

「今夜の渡は・・・亮太はちょっと見直した」

 

「もっと早く気付いてくれ」

 

「・・・と、その公生の反応あり。帰ってきたみたいよ」

 

「狩人かよ。なんでわかるんだ。

 っていうか、もう少し経ってから帰ってこいよ、あの野郎」

 

「・・・なに言ってんの。

 公生の歩幅の足音とか、さ。たぶん両手に紙袋持ってる。かをちゃんとこのお菓子だな、これは」

 

「ホントに目が狩人になってるぞ」

 

「ちなみに亮太の足音も判別できるよ、私。付き合い長いしね。

 お茶煎れて持ってくるよ、待ってて」

 

「ありがとう・・・そうだ、椿」

 

「なによ」

 

「これからもよろしくな」

 

「なに言ってんの。これからもあんたと公生は監視対象よ、道を踏み外さないようにね」

 

「俺もがんばるからさ」

 

「・・・本当に病院行く?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

奇跡の大逆転、新星大活躍、等々の中継には気も留めず、渡選手は幼馴染み達が座っている客席の方を眺めた。

視力は良い方だったが、さすがに表情は視えない。だが、彼の相棒と、新婚間もない二人が両腕を振って叫んでいる姿は視えた。

「ほら、ちゃんとなれただろ、スーパーヒーローに」

等と呟くと、親友はそれが聴こえたかのように片拳を振り上げた。

本当に全力を振り絞ったらしく、足元がおぼつかない。そんな渡選手は仲間や係員に自動誘導され、いつの間にか記者達が待つ場に通されていた。

フラッシュの連写が眩しい。こういうのには絶対に慣れそうにないな、等と思っていたら、順番を待っていた記者がレコーダーを差し出してきた。

 

「入団して第一戦目の渡選手、ロスタイムの猛攻は驚愕ものでした。あんなスタミナ、どこに残っていたんですか?」

 

あー、やっぱりこういうのは無理だ、と一瞬で頭の中が真っ白になる。だから用意していた台詞など綺麗さっぱり無視、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。

 

「ここには素敵な応援団がいるんで。挫ける姿なんか見せられないですよ。

 こういう時は絶対に駆け付けてくれる友達もいるし」

 

息を切らしながら、親友たちの居るスタンドの一角を見つめ、それからスタジアムの上空を見上げて、

 

「それに、こういう時には毎回、最高のBGMを奏でてくれる演奏家もいるんでね。絶対に負けられませんよ!」

 

にっこり笑って、青空に向けてサムズアップ。

 

 

 

 

 

以上。

 

 


 
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