真っ暗闇のなか・・・。
黄色い閃光!
見えなかった岬が、大きく照らし出される。
ドン!
爆音が響く。
ヒュー
空気を切り裂く音。
黄色い火が尾を引いて、まっすぐ上っていく。
そして・・・金色の大輪の花が咲く。
ドーン!!
さっきとは比べ物にならない、爆音!
ドン!
岬のさらに向こうから、また爆音。
あそこは、港の向こう、堤防の上だね。
黄色い線が夜空をのぼって・・・。
再び花が咲く。
ドーン!!
岬からまた、うち上がる。
その岬の海沿いに並ぶのは、四角くて大きな光る箱。
高さ7メートルはある、切子灯籠だ。
キリコと呼ばれてる。
周りを和紙で囲った箱で、なかに明かりをともしてるんだ。
絵や墨の字が書かれてる。
今では明かりはLEDなのかな。
白くてとっても明るい。
数は公式ホームページによると40くらいあるらしい。
能登の、この地方の祭りには欠かせないもの。
石川県、能登町、宇出津。
日本海に大きく飛び出した半島、能登半島。
その本州側、富山県側に向いた港町が、この宇出津。
晴れた日には、富山の立山連峰が見える。
夏でも雪をのせた、壮大な山脈だよ。
そしてここが、2024年の元旦に、大地震にあった所・・・・・・。
そうだ。
ここの目の前の海。
地震の時は津波があって、近くの建物を飲み込んだんだ。
その時崩れた家は、今は空き地になってる。
海辺には、もとは手すりがあって、階段があって近づけるようになっていた。
今は、地面が沈んで、波がかかってる。
高潮になると、波が辺りに乗り上げるそうだ。
道にも割れ目があって、大きいものは砂利で埋めてある。
近くのトンネルの前には、「通り抜けできません」の立て看板がある。
トンネルの出口で土砂崩れがあって、今も手付かずらしい。
ほかにも、気づかない被害はたくさんあるだろう。
そして能登や、周辺にも・・・・・。
それに、9月には大雨があった。
あふれた海辺の川は、どこまで広がっただろうか。
でも、人びとの表情には元気があふれてる。
夏は能登の祭りのシーズン。
今日はその始まり、あばれ祭りの日だ。
ドーン!!
先に打ち上げられた花火の煙が、空でモクモクしてる。
それを問題なく突き抜ける、光!
爽快、痛快!
これが夏の風物詩、打ち上げ花火だ!
そう言えば、中国では花火は冬に打ち上げられるものらしい。
だから、中国からの留学生が、夏の花火を新鮮に思うんだそうだ。
どうして打ち上げる季節が違うのかな?
まあ良いや、後で検索しよう。
今のスマホの仕事は、あばれ祭りの撮影だ。
歩きスマホはダメ。立ち止まる。
でも、それは他の人たちも考えていた。
辺りは埋めつくす人、人、人!
1面をおおう人とスマホのカメラ、本格的なカメラが、花火を追っている。
ドン! ドン!
花火が上がる度に、どよめきが上がる。
花火大会の規模としては、もっと大きいものもあるだろう。
けど、ここは花火との距離が近いのかな。
ふるえる空気に、自分もふるえてしまう。
おだやかな海が、花火を反射してくれる。
ここは入り江の奥にある港で、今はたくさんの白い漁船がつながれ、休んでいる。
ここは、港に向かって、開かれるように作られた大屋根の中だ。
木材をふんだんに見せて、黄色いライトで照らされてる。
雨風があれば僕ら観光客を守ってくれる。
今はみんな、立ち入り禁止の標識ギリギリまで外に出てるけど。
ドーン!!
また花火が上がった。
爆音が山にこだまして、消えていく。
こだまの音は、何かに似てるな。
そうだ、荒海の波の音だ。
波の音がザバーン、ザバーンじゃなくて、いくつもいくつも重なって、絶え間ないゴーに聞こえる。
日本海を長く渡ってきた波の音。
能登半島の北側、輪島市の海で聞いたんだ。
そしてそれが、最後の打ち上げ花火だった。
花火を打ち上げていた岬に、動きがあった。
キリコが動きだしたんだ。
ひとつのキリコは前後に延びるかつぎ棒に支えられてる。
それを何十人もかつぎながら、こっちへやって来る。
鐘と太鼓や笛の音に合わせて。
「イヤサカヤッサイ! サカヤッサイ! 」
無数の掛け声が、きれいに重なって響く。
どんな合唱団にだって負けてないよ。
しかも、キリコをかついで歩いてるんだ。
左の商店街を見れば、歩行者天国になって屋台が並んでる。
大屋根の右には、仮設テントがある。
宴会があるんだ。
誰でも無料で楽しめる。
ヨバレと言う、能登の祭りの名物らしい。
親しい人を家にまねいて、パーティーするんだ。
覗いてみたら、足の踏み場もないほど人がいた。
あそこに入ったら、さすがに邪魔になりそうだ。
キリコが来るまで、また歩行者天国に行こう。
・・・なかなか進めないな。
過疎に悩む地方とは思えない。
復興が進んでないなんて、嘘みたい。
・・・・・・ダメだな。
どんなに言葉をつなげても。
あばれ祭りのスゴさ、美しさ。
そして震災や大雨からの復興、現実を表現できない気がする。
街の様子は、今も撮影している。
編集したら、ネットに上げるつもりだ。
でも、もっとうまくナレーションを入れたいな。
・・・そうだ。
僕自身の事を語ってみよう。
幸いにも僕は、川村 勝己!
高校生タレントだ。
歌手だ。
レギュラー番組だってある。
「イヤサカヤッサイ! サカヤッサイ! 」
―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
僕が能登と縁ができたのは、本当に偶然なんだ。
親が、2人ともタレントなんだけど、その知り合いが、能登の生まれなんだ。
その人の街で、NHKのど自慢の収録があった。
あの、全国を回って歌の得意な人を集める、長年続く番組だよ。
思い付きは大切にしたいね。
のど自慢について調べてみた。
あの番組は、放送のための撮影の前日に、オーディションをするんだね。
そのオーディションの様子を、石川では夕方のニュースで一週間流したんだよ。
検索して見た。
そしたら、出演者たちが、みんなこう言ったんだ。
「震災や大雨の時、これを応援歌にしました」って。
そして、これ、をのど自慢で歌うんだ。
その時、実感したんだ。
応援歌は実在するって。
僕は歌手だ。
そんな歌を世界で最初に発表できる。
その事を誇りに思ってるよ。
―◆――◆――◆――◆――◆――◆―
大屋根に戻ってきた。
いくつものキリコが、目の前を駆け巡る。
本当に駆け巡ってる。
法被を着たおじさんも、胸にさらしを巻いた女の子も、みんな明るい表情でかついでる。
大屋根の前に、大松明がある。
丸太が立てられて、上半分は茶色く乾いた木の葉が太く巻き付けられている。
それが、5本。
最初の1本に、火が付いた。
たちまち赤い炎が立ち上る!
小さな赤い光が、海に向かって流れていく。
火の粉だ。
風にのってるんだ。
海側にも、たくさんのギャラリーが詰めかけてる。
だけど、だれも火の粉なんか気にしてないみたい。
去年のあばれ祭りの動画なら見た。
一緒に見た友達は「狂気だろ」と言ってたな。
確かに、と思う。
それに動画では、あんなに小さな火の粉は写ってなかった。
松明の周りをキリコが走り回る。
最初に燃えた松明が、全体を大きな炎とする。
その時、崩れた。
ひときわ多くの火の粉が飛び散る。
キリコは、迷うことなくそこへ突っ込んだ!
本当に狂気だ・・・。
不規則にピーピーと笛が鳴る。
お巡りさんの笛だ。
だけど、松明やキリコの事を止めようとするわけじゃない。
なぜか車が近づいたから、交通整理していた。
もう、3本目の松明に火が付いた。
明日の祭り、早く見たいな。
大松明は、場所を変えて始まる。
それと、あばれ神輿がある。
2基のお神輿が町中で暴れまわるんだ。
文字どおり、交差点でひっくり返る。
そのままグルグル回る。
もちろん、人びとが息を合わせて暴れるんだ。
どんなブレイキンのダンサーにも負けないね。
さらに神輿同士でぶつかる。
ついには海や川、最後は火の中に投げ込まれる。
それをすると、神様が喜ぶそうだ。
スゴい神様だな。
こんな祭りは、ムダなのかな。
人が減って、消えていく地方が、威張りたいだけ。
そんな予算があれば、ほかに回せ。
そう言う人はいるし、実際にそういう面もあるだろう。
でも、ここにいる人たちを見てると、それだけじゃない面が見えてくる。
ここに能登の人がいる。
キリコをかついでるのは、ボランティアで来た大学生とも聞いた。
でも今は、同じ元気を振りまいて祭りを楽しんでる。
この元気を作り出せる方法が、どれだけあるんだろう?
歌を作ろう。
元気のための歌を。
曲名はズバリ、「For Fine!」
|
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
祭りの始まり。
あばれ祭りの夜です。
日本海に付き出す能登半島。
その夏は祭りの季節。
小さなものから大きなものまで、人びとの思いが駆け巡る。
続きを表示