――『赤壁の戦い』の何日か前。
城の中は慌しかった。
赤壁へ向けての兵士の数の確認、作戦立案、念入りの鍛錬など。
『大きな戦になる』と誰の頭でも認識させる。
「………う~ん」
といっても、彼にとってはもっと重要な事を考えている。
「何を深刻に悩んでいるのですか~?」
声をかけられ、振り向くと程昱がいた。
「いや……なんでもないよ」
首を横にする。
「……風には言えないこと……なんですか~?」
程昱は悲しそうな目で北郷を見つめつつ、手を伸ばし、頬にふれた。
「あ―…いや―……」
北郷は目を逸らす。
「……う~~」
曖昧な返事に腹を立てたのか程昱は、北郷に抱きついた。
「一刀さんは、もう風のことが嫌いなんですか?」
北郷の胸で程昱が甘えたような声で言う。
「もう少しだけ自分で考えさせてくれ。風」
北郷は程昱の頭にそっと撫でる。程昱は気持ちよさそうに目を細めた。
北郷一刀と程昱は恋仲である。一体いつ、どこで、何があってと疑問が浮かぶが、気付けばこういう関係になっており、いまのところ二人はうまくやっている。
「いよいよ……ですね……」
程昱が北郷の胸に顔をうずめたまま、そうつぶやいた。
「そうだな……きっとこの戦いが運命の分かれだろうな」
――『赤壁の戦い』
二人の脳裏に『死』が浮かぶ。
「大丈夫。風も華琳達も死なせない」
北郷の胸に顔をうずめたままだったが程昱は震えていた。
「……風」
北郷はそんな程昱をぎゅっと強く抱きしめるのだった。
夕刻、北郷は街の警邏へと外に出た。
街はいつもと変わらない賑わいがあった。
「……今日も平和だな」
――『何もない』。
この戦乱の時代において『平和』の維持が一番難しい。ちょっと気を抜けば盗みや暗殺者など街にはウヨウヨいる時代。だから街での『普通』の賑わいは北郷にとってとても安らぐのだ。
「ん、あそこにいるのは……」
街中に見知った顔を見かけ、北郷は声をかけた。
「華琳」
この国の王曹操、真名華琳が、北郷の声に反応して振り向いた。
「あら、一刀。どうしてこんな所にいるの?」
「街の警邏さ」
曹操は、北郷がこの世界に来た時に出会った。最初は北郷の未来の知識を目的として仲間にしていたが、北郷の才能が買われて今では警備部隊責任者とアイドルユニット「数え役萬☆姉妹」(かぞえやくまん・しすたぁず)のプロデューサーとして活躍している。また密かに北郷は曹操にとって心の支えになっていて、恋人の程昱の次に仲が良かった。
「一人なのか?」
北郷が曹操に訊く。曹操はこの国の王。そんな人が護衛もなしに街に出ているからだ。
「問題ないわよ。それにこれからは一刀が守ってくれるのでしょ?」
曹操はニッコリと笑った。
「やれやれ……」
溜息を一つ吐くと、北郷は共に歩いていた警備兵に後の事を任せて曹操の護衛になった。
「それで一人で何していたんだよ?」
「お忍びで料理を食べに来ていたのよ」
「………」
北郷はちょっと唖然してまう。普段なら『お忍び』なんて一番似合わない曹操が自分を偽って料理を食べに行くなんて意外だからだ。
「それで髪のクルクル――」
「殺されたい一刀?」
「いえ……」
曹操の特徴である巻髪がされていないことに気付いて指摘しようとした北郷だが、失礼な表現だったために睨まれてしまった。
「それにしても……」
普段から見知った顔だと言うのにこうして髪を変えてしまうだけで全く別人に見えてしまう。
「ふふ……惚れてしまったの一刀?」
曹操は近づき甘い吐息を北郷の耳元に囁く。
「あ、いや……」
動揺する北郷。しかし曹操はそんな姿で満足したのかすぐさま離れた。
「冗談よ。そんな事したら風に殺されてしまうわ」
「……は、ははは」
この時、北郷は心から程昱が居ないことに安心した。
曹操を護衛しながら街を歩く北郷は、ふと思いついたように曹操に話しかけた。
「華琳、相談があるんだけど……いいか?」
「風のことかしら?」
年頃の女の子というものは、他人の恋愛にはとにかく敏感で、特に曹操は以前に北郷の恋のライバルだったためかすぐに北郷の悩みに答えてみた。
「ああ……その、俺は……」
北郷は暗いトーン声で何か呟くが声が小さすぎるために聞こえない。
そんな北郷の表情を見て、曹操はバンッと右手で北郷の背中を強く叩いた。
「まだ決まったわけじゃないのに、何を怯えているの、よっ!」
「っ……!」
痛みが北郷の体に走り一瞬顔を歪めるが、気持ちは変わらなかった。
「はぁ……時々、どうしてこんな貧弱な男に本気になってしまったのか疑問になるわね……」
曹操が横目で見る。そして、おおげさに肩をすくめながら言った。
「仕方がないわね。この私が貴方に知恵を借してあげるわ」
「え、いや……」
そうしたなかば強引に押し切られる形で、北郷と曹操は目の前にある食堂へと入っていった。
……そんな一部始終を、離れた所から目撃した人物がいた。
「あれ―? さっきの人誰だろう?」
いつものように食べ歩きに出かけていた許緒、真名季衣が、片手に抱えた食物がいっぱいに入った紙袋の中から、色つやのいい桃を取り出しかぶりついた。
「後でみんなに聞いてみよ―っと」
そのとき見たことを、許緒は深く考えなかった。
続く……
あとがき
この物語は、『北郷が程昱”だけ”好きなった恋姫物語』です。ちなみに”あれ?”と思う部分があると思いますが、あえて『無視』してください><
ちなみに前、中、後の三部作になっています。
では、今度は中編の時まで^^
|
Tweet |
|
|
45
|
2
|
追加するフォルダを選択
北郷と程昱がラブラブの世界。