中学三年の春、一度も話したことのない子に告白された。けれどその子は、僕のことは好きではないらしい。え?意味が分からないって?僕も分からないよ。
僕に交際を申し込んだのは真っ直ぐな黒い髪を腰近くまで伸ばしてる可愛い顔の女の子。確か僕の学年で三つ指に入るくらい人気の子だ。いつも本を読んでいて、蔭では密かに「本ちゃん」と呼ばれている。本名は……あー、本名を知らないくらい交流が無い。同じクラスだけど、あだ名が浸透しきっちゃっているし、本名が必要な距離になったことがないのだ。そんな子が、僕に「付き合おうよ」って言ったんだ。
しかし謎だ……。本ちゃんみたいな子が急に僕に告白するなんて漫画の中でしかまずないと思っていたのに。本ちゃんに何が起こったんだろう。告白を素直に喜ぶ前に、疑問ばかりが思い浮かぶ。すっかり考え込んでいる僕を、本ちゃんの声が現実に引き戻した。
「おーい、どうしたの?」
「え、あ、ごめん。なんで僕は告白されてるのかな」
「私が告白したから」
「そうなんだけど……」
なんで僕に告白したのかが聞きたいんだけどなー。僕と本ちゃんには本当に何も接点なんかなかったのに、本ちゃんに好かれる要素をどこで身につけてきたんだろう。うーん?
「だめ?」
あーもうっ!そんな可愛らしく聞いてこないでくれ。もう本ちゃんなら即OKしたいところだけど、やっぱり付き合うなら好きになってからがいいし、ここは慎重にいかないと。
「質問するね」
「うん」
「どうして僕と付き合おうって思ったの?」
「それよ!」
「へ?」
それ?それってどれ?僕はキョロキョロ周りを見回すけど、あいにく「それ」にあたるようなものはない。本ちゃんの顔を見ると、素晴らしいものを見つけたような顔をして僕を指差している。僕?
「あなた、一人称が「僕」でしょう?一人称を「僕」っていう人はあまりいないじゃない。だから付き合おうと思ったの」
「……」
えーと、待てよ。一人称で僕だから、付き合うのは好き?ん?なんだどうした。
「あー、伝わってない……」
「ごめん。ちょっと待って」
僕は頭の中を必死で整理する。あぁ、なんて回転の遅い僕。えーっと、本ちゃんが僕と付き合おうと言ったのは、僕が僕を僕と呼ぶから。僕を僕と呼ぶ人はあまりいないから僕と付き合おうと思ったわけで…。
「じゃあ僕じゃなくてもよくない?」
「うーん、そうなんだけど……。私が見た中で、あなたが一番僕って言葉が似合うのよね」
「……ありがとう」
本ちゃん、かなり変な子だ。きっと今時の中学生女子は一人称が僕で、それが似合うからと言って付き合おうとは考えないだろう。よほど『僕』が好きなのか、それとも僕に似合っていたのか。なんだこのおかしな状況。
「一人称が『僕』だから付き合おうと思ったの?」
「違うよ?」
「へ?違うの?」
「それだけだったら付き合わないもの」
えぇぇぇぇぇぇ。もう何この子、意味分かんない。好きじゃないのに僕って呼ぶのが似合うだけで付き合っちゃうの?それってどうなの?あ、からかわれてるな。うん、きっとそうなんだよ。だってそれじゃなきゃこの状況、どう説明すればいいか分かんない。
「あなたは好印象だわ」
「…それって好きってことじゃないの?」
「うーん、まぁそうなんだけど。なんていうか、好きって言葉は使いたくないの。確かに私はあなたの事、好きだけど、でもそういう風に口にすると何か違うなって思ってね。じゃあ好きじゃないのかって聞かれたらそうじゃないんだけど、でも何て言うか、その……あーもう!付き合うの?!付き合わないの?!どっち?!」
「じゃあ付き合おうか」
僕は本ちゃんの勢いに押されるかたちで、僕はまるで最初から決まっていたかの如く付き合うことを承諾した。さっきまでの好きとかの話はもう何処かへ行っている。違うよ、押しに弱いんじゃないんだよ。ただ、たとえ少し変かもしれないけど本ちゃんみたいな可愛い子と付き合える機会なんて滅多にないと思ってね、うん。
「やった!じゃあ名前教えて」
「へ?」
「実はね、通りすがりに自分のこと僕って言ってるの聞いて、その時の声とうろ覚えの顔を頼りに捜したから名前知らないの」
やっぱり変だ、と思いつつも本ちゃんの行動力に驚いて目が点になる。通りすがりってことは、本当に僕のこと知らないで好印象?だけで付き合おうと思ったってことだよな?最近の女子はすごい。いや、本ちゃん限定かもしれない。
「僕の名前はね、柳ゆうすけ。木の柳に、ひらがなでゆうすけ」
「じゃあ、柳君でいいかな?」
「うん。ほ……君の名前は?」
本ちゃん、と言いそうになって急いで言葉の方向転換。危ない危ない。「本ちゃん」は一部のファンが勝手につけたあだ名が浸透しただけだから、本人は自分がそう呼ばれてることを知らないはずで、うっかり自分がばらしたなんて知れたら後で何されるか……。
「呼び慣れてるなら、本ちゃんで大丈夫だよ?」
「……え?」
「みんな私が気付いてないって思ってるけど、実は知ってるんだ。廊下で通りかかる時とか聞こえてくるし、話の内容とかで私のことなんだなぁって分かるし。本ちゃんってあだ名、何気に気に入ってるんだよね。あ、でもこれじゃフェアじゃないね」
私だけあだ名っていうのはいけないよね、なんて恥ずかしそうに笑う。どこにはにかむ要素があったんだい?可愛いけど。
「私の名前はね、楓。青山楓だよ。青い山に、一文字の方のカエデ」
呼び方は本ちゃんでいいよ、と笑う。陰で勝手にあだ名をつけられても怒らずに、むしろ「気に入ってるんだ」と嬉しそうに笑う本ちゃんは、抱きしめたくなるくらい可愛かった。
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学園ラブコメ…になればいいな。本ちゃんが少し活発な女の子になってしまったので、上手く方向転換出来る続きが書きたいなぁ……