第0話「ツナと私」
私は藍沢雨。
沢田綱吉――通称ツナは、昔からの幼なじみだ。
鈍臭くて、泣き虫で、すぐに転んでは泣いていた。よく虐められていて、私はそのたびに間を取り持って、なあなあで友達になった。庇うのは、正直怖かった。私自身も標的になるかもしれないという恐怖があった。だからこそ「間を取り持つ」という形をとっていた私は、きっと卑怯者だった。
それでも、ツナはそんな私に懐いてくれた。友達でいてくれた。
中学に入ってから、ツナの状況はさらに悪くなった。
成績は学年で最下位、運動もダメ。虐めはますますひどくなって、気づけば私だけが彼の友達だった。
私は彼の勉強を見始めた。というより、ほぼ毎日ツナの家に通って、宿題を手伝い、テスト勉強を教えるようになっていた。
けれど、ツナはいつの間にか、私に甘えるのが当たり前になっていた。
勉強の時間は、気づけばゲームになり、雑談になり、気ままなおやつタイムになって、まともに机に向かうことは少なかった。
――このままじゃ、いつまで経っても変わらない。
そう危機感を抱いたのは、中学二年になってからだった。
私は意を決して、ツナに少し厳しく接するようにした。甘やかすのはもうやめようと。
……でも、そうしたらツナは毛布にくるまって拒否反応を示すようになった。
「ダメだ、これは」と思ったのは、そのときだ。
それでも、なんとか彼の成績は少しずつ――本当に少しずつ、下から数えたほうが早いくらいには改善した。私が嫌になって投げ出さず、根気よく付き合った結果だった。
だけど、成果が思うように出ないことは正直つらかった。本気で頑張ったのに、たったこれだけかって。
それでも、ツナは逃げ出しながらも私を気遣ってくれた。
コンビニで私の好きなお菓子を買ってきてくれたり、勉強のあとに一緒に食べる夕飯を準備してくれたり。仲直りの形が、なんとなく私たちの中でできあがっていた。
そんな、ゆるやかな日常がこのまま続くと思っていた――あの日までは。
その日、私はツナと一緒に登校していた。朝の空気が少しだけ肌寒い春のはじまり。
前方から、スーツ姿の……赤ん坊が歩いてきた。
……赤ん坊、スーツ……? え? 一人で歩いてる?
歩けるの? いや、三歳くらいなら歩くか……でも、あれ三歳? え、赤ん坊だよね?
混乱している私の隣で、ツナが「ヒッ」と短く悲鳴を上げた。見ると、彼の顔は真っ青で、目の下にはくっきりとクマがある。昨日は私が用事で行けなかったけど……もしかして、何かあった?
ガタガタと震えながら、ツナは私の背後に隠れて、しっかりとしがみついてきた。
その視線の先、スーツの赤ん坊がツナを見て言った。
「それがツナの嫁候補か」
「は?」
突拍子もないその一言に、私は素で聞き返した。
嫁候補? 誰が? 私が? ツナの? ……ちょっと待って、何言ってるのこの赤ん坊?
混乱している間に、赤ん坊はさらに言葉を続けた。
「とりあえず、ツナと嫁候補の藍沢雨。お前ら二人してこのオレが鍛えてやる。特にツナ、逃げれると思うなよ」
赤ん坊とは思えない落ち着いた口調で、まるで当たり前のようにそんなことを言った。
――こうして、私とツナの当たり前の日常は、突如として音を立てて崩れていったのだった。
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家庭教師ヒットマンリボーンの二次創作です。
ツナと幼馴染の青春話になります。中編です。