第七話「ツナと出し抜け」
さらに一週間ほど経った頃、私はようやく並盛へ戻ってきた。実はおばあちゃんの用事で遠方へ行っていて、家の手伝いをしていたのだ。久しぶりに帰ってくると、聞き捨てならない話を耳にした。
「ツナが入院した?!」
幸い軽い入院だったらしいが、誕生日を病院で迎えたと聞いて、私は慌ててケーキ作りに取り掛かった。キッチンに立つと、何人かが「何作ってんの?」と興味津々に覗いてきたが、私はいつも通りの、スポンジに生クリームをのせただけの素朴なケーキを作った。
だって、ツナが一番好きなのは、これだから。
完成したケーキをツナに差し出すと、彼はぱっと笑って、
「やっぱ、一番は雨のケーキだね」と、とても嬉しそうに食べてくれた。
その瞬間だった。
「雨、友達やめて、オレと付き合って」
一瞬、意味が分からなかった。
「付き合う」って、どこに? どこかに行くの? と、首を傾げていると――周囲の反応に気づく。獄寺くん、山本、ハルさんの顔が一斉に赤くなって、口を押えたり、目を見開いたりしていた。
え……?
――そういう意味!? 恋人としての「付き合う」ってこと!?
顔が一瞬で熱くなった。まるでりんごみたいに真っ赤になってしまった私が、思わず叫ぶ。
「なんで皆がいるところで言うのよ! ツナ、空気読んでよっ!」
ツナはというと、落ち着いた表情のまま、あっさりと言った。
「皆、もう知ってるから」
「し、知ってるってどういう……?」
「雨は気づいてないけど、小学生の頃から、オレたち付き合ってるって思われてたんだよ」
「はああっ? 何それ意味わかんない」
「オレは隠してたわけじゃなくて、雨が気づくまで待ってただけ。でも、このままだといつまで経っても伝わらなさそうだから、ちゃんと告白することにした。……逃げられたくないからさ」
「わ、私は逃げてないもん」
「逃げてる。チャットも全然返してくれなかったし」
「そ、それは……忙しかったからで……」
ツナはふっと柔らかく笑って、真っすぐに言った。
「オレ、雨が本当のことを言えるようになるまで待つよ。でも、まずは、オレと付き合ってくれる?」
「……押し強すぎじゃない?」
「そうかなぁ? これでも、けっこう待ったんだけどな」
私は視線を落とし、まだ整理しきれない気持ちを抱えたまま、そっと言った。
「……まだ、飲み込めてないから。返事は、明日する」
「うん、いいよ。待ってる。……イエス以外ないと思ってるけど」
「なんなの、その自信……囲い込み上手?」
「かもね。でも、雨限定だよ。そんなの、他の子にはしないし」
ツナの言葉が胸の奥にすっと入ってくる。だけど同時に、まだ少し戸惑っていた。
ふと周囲を見ると、獄寺くんが顔を真っ赤にして「さすが十代目、抜け目ない告白ッスね!」と絶賛していた。山本は「二人らしいなあ」と爽やかに笑っている。
けれど、ハルさんの姿はもうなかった。ビアンキさんも、気づいたらいない。
……そうか。
これって、ハルさんにとっては失恋なんだ。胸がちくりと痛んだ。
でも、私が慰めに行くのは違う気がする。ビアンキさんなら、そっと寄り添ってくれるはずだ。
最近のツナは、なんだかちょっと“罪な男”になってきたな、と思う。京子さんの目も引いて、ハルさんにも慕われて――。
だけど、私は――
私は、ツナが好きらしい。
「友達以上かどうか」と問われれば、まだ即答はできない。でも、自分以外の誰かと一緒にいる未来を想像すると、どうしようもなくモヤモヤしてしまう。
ああ、やっぱり私はツナと一緒にいたい。
恋とか愛とか、そんな言葉の正体はまだよく分からないけれど、ツナの隣にいると落ち着くんだ。
ずっと一緒にいられたらいいな。
……出来れば、平穏な日常の中で。
だけど、それが叶わないことも分かってる。
私がまだツナに隠していること。
ツナの周囲が騒がしすぎて、平穏とは程遠いこと――。
それでも、私は決めた。
明日、ちゃんと返事をしよう。
|
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
家庭教師ヒットマンリボーンの二次創作です。
ツナと幼馴染で青春を送ります。中編です。