一、「ある少女の話」
生まれて数日が経った頃、両親の表情に浮かんだ「何処かで見たような気がする」という曖昧な戸惑いを見て、私はようやく悟った。
――ああ、転生したんだな、と。
それでも赤ん坊の身で知識無双などできるはずもなく、そもそもこの世界は、現代日本とそれほど大きく違わない。ならばと、私は流れに身を任せることにした。転生したとはいえ、誰かと戦うつもりも、何かを成し遂げるつもりもなかった。ただ、普通に生きていくはずだった――そう、あの夜までは。
「うわああああああっ!! 学園都市、治安悪すぎィ!!」
泣き叫びながら、少女は暗い路地裏を疾走していた。速い。自分でも驚くほどの速さで、足を止めることなく、必死に逃げ続ける。
深夜の学園都市。どこもかしこも明るく輝く街の影には、闇があった。八人の男たちに追いかけられる少女。中学生の身には酷すぎる状況だ。
背後でポリバケツが転がる。自分で蹴飛ばして足止めに使ったのだ。
けれど効果は一瞬。彼らの気配はまだ近い。
――七月十九日。
友達と遊んだ帰りに、少し小腹がすいて入ったファミレス。そこにいたのは、年の近い女の子。ただ、それだけの出来事だった。
だが運悪く、以前“彼”が懲らしめた不良たちに目をつけられ、騒ぎが起こり、少女は追いかけられる羽目になった。
「頼んでた品、まだ来てないのに! 何で私が食い逃げ扱いなの!? ……不幸!!」
涙を溜めた目で、少女は夜の大通りへと飛び出した。風力発電の三枚羽根が、月明かりを受けて回っている。夜景の中を、彼女はただただ走る。
右手がすれ違っていく。絶対に止まれない。絶対に――!
やがて、不良たちの気配は遠のいた。都市部を離れ、大きな川沿いへと出る。そこには全長約150メートルの鉄橋。
少女はその橋を駆け抜けながら、後ろを振り返る。……もう、誰もいない。
「……こ、これなら……だ、大丈夫……」
ぺたんとその場に座り込み、少女は肩で息をした。心臓がうるさいほど鳴っている。右太ももに手を伸ばすと、そこには特注のホルスター。中には小さな食用ナイフ。
握る手が、震えていた。使わなかった。誰も傷つけなかった――その事実に、ようやく心が少しだけ安堵する。
だが。
「ったく、何やってんのよアンタ。いつもなら、人が変わったみたいにボコボコにするくせに」
声に、少女の体がビクリと跳ねた。
振り返ると、そこには見覚えのある少女。灰色のプリーツスカートに、半袖のブラウス、そして肩までの茶髪を揺らす彼女。
――ファミレスで絡まれていた、あの子だ。
「美琴ちゃん……まさかとは思うけど」
「うん。めんどかったから、やっておいたわ」
バチン、と。青白い火花が弾けた。肩先から漏れる火花は、彼女の能力の証。
御坂美琴。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の一人。そして、少女の――数少ない友人。
「美琴ちゃん、それは余計だったよ……」
「何よ。アンタの方が余計なことばっかするでしょうが」
一ヶ月近く顔を合わせるうちに、互いに軽口を叩き合えるようになっていた。美琴はハンカチを取り出し、差し出してくれる。少女は「ありがとう」と小さく呟き、それで顔を拭く。
「とりあえず、無能力者(レベル0)のアンタは、夜に出歩かない方がいいわよ」
「わかってる……。もう帰る」
「あ、それと。あの食い逃げ、私が払っといたから。貸しね」
「うぐっ……」
美琴に貸しを作る。良かった試しは一度もない。だから――
「私、自分より強い“人間”がいるの、許せないのよね。だから……勝負よ!」
宣言とともに、再び雷鳴が街に轟く。
少女の逃走劇は終わったが、嵐は、別の形で始まろうとしていた。
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とある魔術の禁書目録の二次創作です。
上条当麻女成り代わり主で、空の境界の両儀織が体に同居して、二重人格で入れ替わりながら話が進みます。一方通行は上条さんのためにタイムループして何回もループしていたせいで思考が少し歪んでいます。
全三十四話です。