二、「最初のヒロイン」
七月二十日。夏休み、初日。
エアコンが壊れていた。
昨夜の雷の影響で、家電の八割が沈黙。冷蔵庫も例外ではなく、中の食材はすべてご臨終。
唯一生き残ったカップ麺をすすりながら、買い出しのため財布を探していると、足元で何かを踏んづけた。
それはキャッシュカードだった。
無残にひしゃげたカードを見つめ、私は静かに泣いた。
泣きながら麺を食べ終えたところで、電話が鳴る。
『上条ちゃーん! 素敵な補習がありまーす♪』
担任の小萌先生からの元気すぎるお誘いだった。
テレビの占いでは「今日は運命的な出会いがあるでしょう☆」なんて言っていた。
結果はこのざまだ。
占いは外れ、おまじないは効かない。
それが、上条当麻という女の子の、日常。
結論から言おう――私は、不幸である。
もうギャグにして笑い飛ばすしかないレベルで、不幸体質。
とはいえ、ウダウダ悩んでいる暇はない。
私は運に頼らない。
運がないからこそ、自分の足で歩くしかないのだ。
「……目下の問題は、カードと冷蔵庫、か。そういえば、今日って……最初のヒロインと出会う日だったっけ」
私は記憶をたどる。
銀髪に碧眼の、十三歳くらいの少女。教会の使者――インデックス。
本来、男子寮のベランダに干されていたはずの彼女。
でも今の私は女子寮にいる。さて、どうなる?
とはいえ、どこかで会うのだろう。
そして、彼女が困っているなら、私は助ける。それが私だ。
私は基本的に、困っている人を放っておけない。
たとえその人が、自分の記憶を消すきっかけになった存在だったとしても――それでも。
「……仕方ないよね」
そう呟いて、私はもう一つカップ麺にお湯を注ぐ。
そして、ベランダへと続く網戸を開けた。
……やっぱりいた。
白いローブ。ぼんやりとした背中。干された洗濯物のように、そこに彼女はいた。
深呼吸して、私は声をかける。
「お嬢さん、こんなところで何をしているの?」
少女は顔を上げて、今にも泣きそうな表情で言った。
「……お腹、すいた」
※
とりあえず、最初に残っていたカップ麺を与える。
その間に常温で生き延びていたレトルトのミートソースを温め、パスタを茹でる。
皿に山盛りにして出すと、少女――インデックスは歓喜しながら三人前を平らげた。
デザートに缶詰のみかんを出せば、それもぺろり。
最後にティーバッグのお茶を淹れて、ようやく一息つく。
そして、自己紹介へ。
「私の名前はインデックスって言うんだよ?」
「私は上条当麻」
「とーまって呼んでいい?」
「どうぞ」
「えへへ、それでね。私は教会の者なんだよ、ここ重要! あ、バチカンじゃなくて、イギリス清教の方ね」
「インデックスってことは……『目次』?」
「そうだね。正式には『禁書目録』、インデックス・リブリオルム・プロヒビトルムってやつ。あ、魔法名なら“Dedicatus545(献身の献身)”っていうんだよ」
ガラステーブルを挟み、正座で向き合う二人。
補習の時間は迫っているけれど、今この子を放っておくことなんて、できなかった。
私はスマホを取り出し、小萌先生に「遅れる」と連絡を入れる。
インデックスはスマホをじっと見て、不思議そうな顔をしていたけれど、通話ができるとわかると、
「やっぱり! あの箱、やっぱり電話できるんだねっ!」
と、目を輝かせて喜んでいた。
※
お茶をお代わりして、また会話は続く。
「私、追われてたんだ」
「追われてた……?」
「うん。『防御結界』があるから落ちても平気だったけど、魔術師にね」
彼女は守られていた。でも、その魔術師たちは、今や彼女を追い詰める敵として動いている。
……なんという皮肉。
かつての味方に追われる現実。
彼女が笑えば笑うほど、胸の奥が締めつけられる。
一年ごとに強制的に記憶を消される運命。
教会の闇に翻弄されるインデックスと、利用され続ける魔術師たち。
私は歯痒さを感じながらも、彼女と会話を続ける。
本当に、どうにかできる問題なのだろうか。
それでも、私は――
(……何とかしたい)
そう、心の中で誓いながら、インデックスと笑い合う。
補習へ向かう時間が来るまでの、つかの間の安らぎの中で。
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とある魔術の禁書目録の二次創作です。
上条当麻女成り代わり主で空の境界の両儀織が体に同居して危険があると入れ替わります。