三、「一方通行(アクセラレータ)」
補習に出た。
小萌先生の声を聞きながら、ふと脳裏に浮かんだのは——
『私と一緒に、…地獄の底までついて来てくれる?』
頼っていいよ、そう言った私に、彼女は笑って、そう返してきた。
その言葉に、すぐに頷けなかったのは、きっと私が「消えたくない」と思ってしまったからだ。
インデックスを助けなければ、彼女はずっと記憶を一年周期で失い続ける。
彼女自身も、彼女を守ろうとしてきた魔術師たちも、報われない未来しか待っていない。
頭のでは分かっている。分かっているのに、踏み出せない。
——私一人だけのことなら、きっとこんなに迷わなかった。
問題は、私の中にもう一人いる「彼」の存在だ。
十六年間も一緒にいるけれど、昼間の彼は大抵眠っていて、まともに話せることは滅多にない。
たまに、私が眠っている間に起き出しては、どこかへ散歩に出るらしい。
不良に絡まれたときなど、ピンチになると彼が表に出てきて助けてくれる。
……助けてくれてるのだから、悪い人じゃない。でも、もし私が記憶を失えば、この奇妙な同居関係も壊れてしまう。
彼を理解できるのは、今や私だけだ。家族も友達も、先生もクラスメイトも、誰一人知らない。
唯一事情を知っているのは、学園都市に来てからずっとお世話になっている病院の医者くらい。
だから——私は彼をひとりにしたくない。
物心ついたころ、彼が「寂しい」と呟いたのを覚えている。そのとき、私は三歳くらいだったと思う。
あのとき私は、絶対に彼を独りにしないと、そう決めた。
……でも、それでも。
インデックスを助けないなんて、そんな選択は違うとも思ってる。
「上条ちゃーん! 先生の話をちゃんと聞かないと、すけすけ見る見るですよ〜?」
小萌先生の声に、思考が途切れた。
いや、私、透視(クレアボイアンス)専攻じゃないから! と心の中で突っ込む。
慌てて真剣なふりをして、講義に集中するのだった。
※
補習とは名ばかりで、完全下校時刻まできっちり拘束された。
「……不幸だよ」
オレンジ色の夕焼けに染まる風力発電のプロペラを見上げて、私はため息を吐いた。
学園都市では夜遊び厳禁のため、交通機関の終バスは下校時刻に合わせてある。
それを逃した私は、灼熱の商店街をとぼとぼと歩いていた。
そんなときだった。
「あっ、いたいた! ちょっと待ちなさ……ちょっと! アンタ、止まりなさいってば!!」
声の主は、御坂美琴だった。
息を切らしながらこちらに駆けてくる。
「……何か用?」
「大ありよ! アンタに勝つまで付きまとうって決めたんだから!」
「いい加減あきらめたら? あ、昨日のハンカチまだだから、また今度ね」
「別にいいけど……アンタ、律儀ね」
「普通じゃない?」
「それより、勝負よ勝負!」
肩にビリビリと電気が走ったかと思うと、美琴の機嫌が急降下。
その怒りに連動して、周囲のスマホが一斉にバギンと音を立て、有線放送がプツリと切れた。
警備ロボットがギギ、と不穏な音を立てて動作を停止する。
ヤバい!
私は美琴の手を強引に掴み、その場から走り出した。
背後から、警備ロボットの警報音が鳴り響く中で。
※
なんとか学生寮へと逃げ帰り、美琴にも勝負はしないと伝えて別れた。
人影のない寮のオートロックを抜け、エレベーターで七階へ。
扉が静かに開く。
——異変に気づいたのは、その瞬間だった。
部屋の前に、誰もいない。
けれど、胸がざわついた。
今朝、インデックスの服に触れたとき、確かに結界が壊れる音がした。
もし彼女の結界が完全に解けていたなら、神裂火織に斬られていた可能性もある。
私は慌てて階を駆け下り、敷地内を走り回る。
でも、いない。
焦りばかりが募る。
そのとき、着信音が鳴った。
こんなタイミングで……と苛立ちつつ画面を見れば、
『当麻。今どこにいる?』
「一方通行(アクセラレータ)? どうしたの、こんな時間に珍しいね」
『帰り道で、背中を斬られたみたいな奴が倒れててな。そいつが、とーま、とーまって言ってやがる。オマエの知り合いかと思ってな』
「インデックス!? もしかして保護してくれたの?!」
『ああ。今、位置情報を送る。すぐ来い』
その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。
まだ間に合う。私はすぐに走り出す。
この先に待つ戦いがどうであれ、彼女を助けに行く。それだけは、決めていたから——。
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とある魔術の禁書目録の二次創作です。
上条当麻女成り代わり主の体に空の境界の両儀織が同居してます。危険があると入れ替わります。